篆刻とは、本来は「印」として職人が作っていたものですが、四、五百年前に彫りやすい印材が発見され、詩、書、画と並んで文人の重要な資格の一つとして発展してきました。篆刻と印には明らかに異なる点があります。それは、印はあくまでなにかを証明することを目的としたものであり、篆刻は美しく個性的であることが要求される「書」の一分野に属するという点です。
篆刻には篆書体という古い文字を使うため、誤字を作らないこと、文字ができた時代によって字形が変わっているので、時代の混交に気をつけることなどの基本的な約束事があります。そうした基本を守ることが篆刻を奥の深いものにしてきたと言えるでしょう。しかし最近、書道関係者の間で「読める書」ということが注目されていることを考えると、篆刻ももっと割り切った考え方で「読める篆刻」として、かな交じりの詩文や、図象印、図案文字など、自由な作品を楽しんで彫っても良いのではないかと感じています。また、私の作品には、篆刻から派生した「刻字」がありますが、これはいわば書を平面から立体へと転化させたもので、板に文字を彫り、着色して飾ります。篆刻も刻字も取り組むほどに独特の味わいを醸す、楽しい創作活動です。(萬石)
楽庵TOPに戻る
|