このひな人形を所有しているのは、江刺市伊手の佐藤トキさん(81歳)。佐藤家では“家宝”的なこの人形を、今日まで代々大切に蔵の中に保存してきた。
ひな壇に明記してある所によると、安政元年(西暦1854年)に購入したものらしく、佐藤家の分家に当る佐川五郎七という人が、京都から取り寄せた。当時の代金で、米五反(375キロ)とか、米十反(750キロ)とか伝えられている。その佐川五郎七の孫が、7代目の佐藤家へ養女として入籍した時に、この人形を持ってきたもの。
人形の大きさは、内裏様とおひな様が高さ60センチ、五人ばやしは33センチで、市販されている今のおひな様とは比べものにならないほど、当時は豪華な品物だったことをしのばされる。内裏様は顔が面長で、冠をかぶり飾り太刀を小脇にかかえ、手には笏(しゃく)を持っている。またおひな様は、十二単(じゅうにひとえ)で身を装い、頭に真ちゅうの冠を付け、手に扇。服は相方とも金糸で出来ている。
146年という長い歳月を経て、幼い少女の夢をはぐくんできた京人形も、髪の毛がぬけ、服もほころび、指の一部が欠けているものがある。しかし全体的に見ると、人形の顔にはツヤがあり、穏やかな春の日差しが障子越しに飛び込むと輝きを増す。(以上の解説は昭和56年の新聞記事を一部訂正したものです)
この度、門外不出のこの貴重な人形を多くの皆さんにお見せするため、ひな祭りの期間を中心に、特別に展示させていただくことになりました。ぜひご覧いただいて、しばし1世紀以上の時の彼方へテレポートしてください。なお、佐藤家所蔵の及川豪鳳の作品もお借りし、第2回没後30周年記念展として併催させていただきますので、併せてご鑑賞いただければ幸いです。 |
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