●――紫雲石硯のこと
 東京から岩手に帰って来た当時の私にとって、遊びといえば自然の物を相手にする以外になかったと言える。
 まず最初にとなり町、東山町の紫雲石硯に興味を抱いた。「奥の正法寺」を見学した時に、紫雲石硯が飾ってあり、それを見て、自分にも出来ない事はないと思って、硯作りに情熱を傾けた。紫雲とは、「極楽浄土」に飛び交う雲のことで、それを表す紫雲石こそこれに値すると思っていた。
 この紫雲石は、なかなか無いもので、特に東山町“夏山”の一角にあるだけである。この石を用いて硯を作るわけだが、いろいろと難しいきまりがあって、それに合致しないと「硯」とは言えず本当に苦労したものである。

 

●――植物画のこと    
 私の植物画は、硯の石を探しに行った道端に咲いていた植物の花があまりにもきれいで、それを記録に残そうと思ったのがきっかけで描き始めた。
 描き始めると、患者さんが次から次へと花を持って来て、私に描かせるのだった。描く時に心がけたのは、出来るだけ空気を感じるものにしたいということである。
 花は、空気の中に咲いていて、何も考えているわけではない。そんな花が大好きで描いたものである。
空気と花が一緒になって、自然を感じていただければ幸いです。
 最後に、私の辞典には、雑草などありません。どんな花も、それなりの役目を果たしているのに雑草とは、人間がつけた人間の思いあがりです。


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